東京高等裁判所 平成5年(ネ)5264号 判決 1995年2月15日
東京都千代田区神田練塀町七三番地
控訴人
中国パール販売株式会社
右代表者代表取締役
三宅輝義
右訴訟代理人弁護士
中島茂
同
野田謙二
同
伊藤圭一
同
柄澤昌樹
右輔佐人弁理士
松浦恵治
千葉県船橋市習志野四丁目一一番一〇号
被控訴人
朋和産業株式会社
右代表者代表取締役
村野友信
右訴訟代理人弁護士
小松陽一郎
右輔佐人弁理士
藤本昇
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた判決
一 控訴人
原判決を取り消す。
被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の物件を製造、販売又は販売のために展示してはならない。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨
第二 当事者の主張
以下のとおり、当審での主張を付加するほか、原判決の事実摘示「第二当事者の主張」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
一 控訴人
1 「ミシン目」について
おにぎり包装用具業界では、おにぎり全体を包装して衛生的に保つという基本的目的のほかに、第一に、消費者が使用するときまでは、おにぎりと海苔とをフイルムで隔離し海苔を乾燥状態に保っておくこと、第二に、使用時には、隔離フイルムを容易に除去しておにぎりと海苔とを合体できるようにすること、これらを同時に達成することが技術的課題であった。
このため、当初から実施されていたのが、「四方タイプ」といわれるもので、これは、矩形状の外装フイルムと同形の隔離フイルムとで袋を形成して、その間に海苔を収納し、この袋全体でおにぎりを包装しておき、使用時には包装袋全体を展開しておにぎりを取り出し、隔離フイルムを外装フイルムから剥がして海苔を露出させて、海苔の上におにぎりを載せ替えて巻き作業を行う方式であり、前記技術的課題に確実に応える長所を有するが、作業過程が面倒であり、より簡単に隔離フイルムを除去できる方式が望まれた。
これに応えるものとして、「パラシュートタイプ」が提案された。これは、外装フイルムと隔離フイルムとの中に海苔を挟んでおき、この包装具全体で円錐形のおにぎりを包み、使用時には、円錐形の頂点部分から隔離フイルムを引き抜いて除去し、おにぎりと海苔を合体させる方式であるが、おにぎりが隔離フイルムに貼り付くので、隔離フイルムを瞬時に引き抜くことが実際には困難であった。
このように、おにぎりと海苔を分離している隔離フイルムを使用時に容易かつ瞬時に除去する技術的課題を解決するものとして、本件考案の「中央で重合する一対の隔離フイルム」の構造が考案されたのであり、使用時に隔離フイルムに呼応して同時に左右に分離されるものとして外装フイルムの構造が検討されたのである。
本件考案の実用新案登録請求の範囲において、「矩形状の外装フイルム1」と記載された後、すぐに「その内面のほぼ中央において重合するよう配置された一対の隔離フイルム2、3」として、隔離フイルムの構造が述べられており、外装フイルムに施される「ミシン目」の構造の記載が出てくるのが後半以降であるのは、必然的なのである。
したがって、外装フイルムは内装フイルム(隔離フイルム)に対応するものとして考えられているのであり、本件登録請求の範囲においては、その構造も「中央で隔離フイルム2、3の重合端縁に沿つた位置にミシン目7を設け」として、あくまで隔離フイルムとその重合部分を基準に記述している。
このように、本件考案の技術的価値を全体からみるときは、「ミシン目」という文言も全体的かつ総合的に考察すべきであり、「ミシン目」とは「適宜の切離し方法を施してなる切離し部分」の意味として理解すべきであって、このことは、本件公報の考案の詳細な説明に、「(外装フイルムを)容易に切離すことができるように直線状に構成されている」と記載されている(甲第三号証三欄五から七行)ことからも明らかである。これを「直線状かつ点線状に開けられた一列の穴ないしその列」などとしていたずらに狭義に解することは、本件考案の技術的価値を没却することになる。
また、控訴人も被控訴人もおにぎり包装用具業界に属するものであるが、両者を含め、当業界の平均的技術者らは、外装フイルム切離し方法が狭義のミシン目であってもカットテープであっても、切離しという意味では全く同じであり、カットテープ方式であっても本件考案の技術的範囲に属するものと認識していた。このことは、控訴人がカットテープ方式を実施しようとした際に本件考案を知り、本件実用新案権につき専用実施権の設定を受け、被控訴人も、使用許諾を求めて本件実用新案権者との間で契約交渉をしたことから明らかであるし、専門家の鑑定でも、同様の意見であった(甲第一三号証)。
2 「開封」及び「シール片」について
被控訴人製品のおにぎり包装用フイルムを使用して製造されたおにぎりは、店頭に陳列される際に賞味期限、製造年月日、価格、製造元(名称、住所)、商品名称(手巻おにぎり)、種別(シーチキン、鮭、明太子、その他)、バーコード記号などを印刷、表示したシール(以下「表示シール」という。)が接着剤又はヒートシール方式により添付、固着されているが、この「表示シール」は、被控訴人製品を「おにぎり包装用フイルム」として機能させるために必須のものではなく、単純に、右各表示事項を記載し、表示するための目的のみで添付されているのである。市販されている被控訴人製品の「表示シール」を剥がすと、折り畳まれた外装フイルムの両端部が接着剤又はヒートシール方式で固定されており、おにぎりの包装としては、その段階で包装が既に完成していることが明白に分かる。すなわち、おにぎり包装用フイルムとして機能するためには、「表示シール」は何ら必要のないものである。
本件登録請求の範囲には「表示シール」の構成は記載されていないから、本件権利の侵害品を特定する場合には、「表示シール」は除外して考慮すべきであり、おにぎり包装用フイルムに新たに「表示シール」という構造が付け加えられたからといって、その判断に影響を来すものではない。
そして、「表示シール」を除外して被控訴人製品がおにぎり包装用フイルムとして使用されている状況をみると、右のように、折り畳まれた外装フイルムの両端部が接着剤又はヒートシール方式で固定された構造となっており、これが本件登録請求の範囲に記載されている「その両隅部を更に折畳みシール片9等により固定する」構造に該当することは明らかであり、被控訴人製品が「外装フイルム1を略半分に折畳んだ状態まで開封し・・・外装フイルム1の略半分を切離し可能とした」構造であることも疑いのないところである。
3 均等論について
仮に、被控訴人製品における「カットテープ」の構造が文理的に本件考案における「ミシン目」の範囲に含まれないとしても、以下に述べるとおり、実質的に解釈すればこれに含まれるというべきである。
(一) 作用効果の同一性
本件明細書において、「ミシン目」という用語の示す構造は、終始一貫して「切離し手段」の意味で使われている。すなわち、「ミシン目」の目的は切離し手段として機能することにある。
本来、「直線状かつ点線状に開けられた一列の穴ないしはその列」という狭義のミシン目は、切取り線という目的以外にも、例えば、洋裁などで目印線としても使用されることがある。しかし、本件考案では一貫して「切離し手段」の意味で使われているのである。
しかるところ、被控訴人製品におけるカットテープも、外装フイルムをその中央で隔離フイルムの重合端縁に沿った位置で切り離すためのものとして用いられているのであり、その作用効果は本件考案と全く同様である。
(二) 置換可能性、容易性について
本件考案の「ミシン目」がたとい狭義のミシン目の意味で用いられているとしても、包装業界の平均的能力を持った技術者からみれば、狭義のミシン目を「カットテープ」に置き換えることは、極めて容易なことである。そして、本件の出願時において、包装用具の切断手段としてミシン目方式とカットテープ方式とが存在することは明白であり、切離しのためにどちらの手段を選択するかは自由にできることであった。
また、日常用語としても、「ミシン目」の用語は、狭義のミシン目以外に、「切取り線そのものを意味する語」としても使用されている。
したがって、当業界の技術者が本件登録請求の範囲をみた場合、ミシン目を切取り線として理解することは自然であり、その場合にミシン目をカットテープで置き換えることもまた極めて自然なことである。実際、当業界の平均的技術者は、本件出願当時から、「外装フイルムを切り離せばよいのであって、切離し手段であるという点では、全く同じである」と感じていたのである。例えば、外装フイルム中央に狭義のミシン目を施して、さらにその内側にテープをごく簡単にヒートシールで付した試作品(ミシン目テープ方式)も存在したが、こうした試作品が量産に至らなかったのは、当業者が「要するに本件ミシン目方式と同じもの」と判断したからである。
(三) 以上のとおりであるから、本件登録請求の範囲記載の「ミシン目」が狭義のミシン目を意味するとしても、被控訴人製品は本件考案と均等であり、その技術的範囲に属するものとして侵害を構成するのである。
二 被控訴人
1 「ミシン目」について
控訴人は、本件考案における「ミシン目」は、「適宜の切離し方法」を意味し、「カットテープ」も含まれると主張する。しかし、例えば、本件考案者は、本件考案より先願の、名称を「海苔巻寿司包装用フイルム」とする考案(乙第二号証の一、二)においては、「隔離フイルムの重合端縁に沿った位置にカットラインを設けた」として「カットライン」という用語を用い、カットラインとして「オープニングテープ」以外に、「帯状ミシン目をカットラインとして穿孔する構造のものでも良い」として、「ミシン目」と「カットテープ」を含む上位概念として「カットライン」という用語を用いているが、それでは、なぜ本件考案のクレームに「適宜の切離し方法」や「カットライン」等の用語を採用せず、わざわざ「ミシン目」に限定したのか、控訴人はその理由については一切触れていない。
また、隔離フイルムを中央で二分するというアイデアも既に右先願考案で示されているところであるから、「中央で重合する一対の隔離フイルム」の構造をことさら強調して「ミシン目」を「適宜の切離し方法」として広く解そうとする控訴人の主張は失当である。
2 「開封」及び「シール片」について
控訴人は、本件権利の侵害品を特定する場合には、被控訴人製品に付されているシール片(控訴人はこれを「表示シール」という。)を除外して考えるべきであると主張する。
しかし、被控訴人製品は、コンビニエンスストアー等で消費者が購入し食する直前の構造を問題としなければならない。そして、被控訴人製品では、このシール片が付されていても、食する際には、「カットテープ」によって切断することができるのである。「ミシン目」ではこのシール片をいちいち剥がさなければならないのに対し、被控訴人製品ではそのような手間を必要としないから、本件考案とは構成そのものが全く異なるのである。
なお、外装フイルムの一部がヒートシールされていることは認めるが、これのみで包装が完成するとの控訴人の主張は失当である。また、仮に「表示シール」を除外して考えた場合でも、被控訴人製品は、「カットテープ」の採用により、「外装フイルムを略半分まで折畳んだ状態まで開封」する必要はなく、また、そのように開封することを予定していない構造であることは明らかである。
3 均等論について
本件考案と被控訴人製品とは、その構成(ミシン目か、カットテープか、開封する構造か、そうでない構造か)が異なるばかりか、作用効果も異なるのであるから、均等論適用の余地はない。
ここでの作用効果の違いとは、控訴人が主張するような外装フイルムの切離し機能を有するということではなく、外装フイルムを略半分まで開封しなくても切り離せるかどうか、という本件特有の具体的な作用効果のことである。
本件考案では「ミシン目」を採用したことにより、「略半分まで折畳んだ状態まで開封」し、両手でフイルムを引っ張ることによりフイルムを切断できるものであるが、被控訴人製品では「カットテープ」を採用したことにより、「略半分まで折畳んだ状態まで開封」する必要はなく、また、両手でフイルムを引っ張ることによりフイルムを切断することも必要がなく(既にカットテープを剥がすことによりその工程を終えている)、しかもデリケートな内包物であるおにぎりや海苔に余分な外圧を与えないで済むという、まさに顕著な効果を奏するのである。
したがって、「ミシン目」と「カットテープ」の作用効果が同一であるとはいえないし、「ミシン目」を「カットテープ」に置き換えることが容易にできるとは到底いえない。
第三 証拠
原審記録及び当審記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 当裁判所も、被控訴人製品は本件考案の技術的範囲に属するものではなく、控訴人の請求を棄却すべきものと判断する。その理由は、当審における控訴人の主張につき次のとおり判示するほかは、原判決の理由と同一であるから、これを引用する。
1 控訴人の主張1について
控訴人は、本件考案は、おにぎりと海苔を分離している隔離フイルムを使用時に容易かつ瞬時に除去するという課題を解決するために、本件考案の「中央で重合する一対の隔離フイルム」の構造が考案されたのであり、外装フイルムの切離し手段としてのミシン目も隔離フイルムの重合部分を基準として記述されているから、「ミシン目」という文言も本件考案の技術的価値に照らして全体的かつ総合的に考察すべきであり、「ミシン目」とは、「適宜の切離し方法を施してなる切離し部分」の意味として理解すべきである旨主張する。
しかし、成立に争いのない乙第一〇号証によれば、昭和五五年九月二日に出願公開された実開昭五五-一二三四七四号公報には、「透明な合成樹脂部材により帯状のシートを形成し、該シートを左右両方向より長辺方向に折り返して外皮部と内皮部を形成し、且つ、左右内皮部の両端辺が互いに重合し合うべく形成し、内皮部と外皮部間を海苔収納部として海苔を備え、内皮部をおにぎり載置部としてなることを特徴とするおにぎり用パツケージ」の考案が記載されており、また、成立に争いのない乙第九号証によれば、昭和五九年一〇月一日に出願公開された実開昭五九-一四七〇六五号公報には、「表シートと裏シートの外周縁を接合し、内部にシート状海苔を封入した包装袋に於て裏シートは並置した2枚のシート片によつて構成され、両シート片は外端縁及び両側端縁を夫々表シートに接合し、内端部は互に相手シート片の内端部に重なり合つているおにぎり包装兼用海苔包装袋」の考案が記載されていることが認められるから、本件考案の「中央で重合する一対の隔離フイルム」の構造は、本件考案の出願日前、既に公知の技術であったことが明らかである。したがって、本件考案者がこれを本件考案の重要な要素として主観的には認識していたとしても(甲第一五号証)、本件考案が右構造を採用したことは公知技術の採用にすぎず、控訴人の右主張は、前提において誤っており採用できない。
のみならず、「ミシン目」方式と「カットテープ」方式とは、その語義からいっても、その構成及び機能の差異からいっても異なるものであるうえ、本件考案の出願の前後を通じて、海苔巻寿司やおにぎりの包装用フイルムに関する特許出願又は実用新案登録出願において、「ミシン目」という語が「切離し手段一般」ないし「切離し手段の例示」として用いられたことはなく、かえって、「ミシン目」という語と「カットテープ」という語とは、フイルムの切離し手段を示すものとして明確に区別して使用されていたことは、原判決の認定するとおりである(原判決一五丁表七行目から一七丁表二行目)。
そして、成立に争いのない乙第二号証の一、二、乙第五号証によれば、本件考案者自身も、この両者を別方式と認識し、区別して用いていたことが明らかである。すなわち、本件考案者が、本件考案の先願として別個に出願した、名称を「海苔巻寿司包装用フイルム」とする実願昭五九-一五七三四〇号考案の明細書(乙第二号証の二)において、「隔離フイルムの重合端縁に沿った位置にカットラインを設けた」として「カットライン」という用語を用い、カットラインとして「オープニングテープ」以外に、「帯状ミシン目をカットラインとして穿孔する構造のものでも良い」として、「テープ」と「ミシン目」を区別して使用し、両者を含む用語としては、「カットライン」を用いていることが認められ、また、本件考案の出願後、本件考案とは別個の考案として出願した、名称を「おにぎり包装用フイルム」とする実願昭六〇-一五二八六六号考案の明細書(乙第五号証)においては、「ミシン目」を「カットテープ」に変更した以外は本件考案とほぼ同一の構成の考案を登録請求の範囲に記載しているのである。
以上の事実に照らせば、本件実用新案登録請求の範囲の「ミシン目」を、控訴人主張のように、「適宜の切離し方法を施してなる切離し部分」を意味するものとして、カットテープ方式を含むものと解することは到底できないというべきである。
成立に争いのない甲第一三号証によれば、控訴人から検討を依頼された弁理士が、控訴人が実施を計画した「カットテープ付のおにぎり包装フイルム」は、本件考案の権利範囲に属するものと解するとの見解を示していることが認められるものの、同弁理士が「この見解書は、あくまでも弁理士個人の一見解にすぎず、いわゆる『鑑定書』なるものではございませんので、そのようにご理解願います。」と記載しているとおり、一弁理士の個人的見解にすぎず、その理由の記載をみても、考案の技術的範囲を確定するうえで専門家としては通常行うべき公知技術の検討等も示されておらず、前示説示を覆すに足りる理由は何ら述べられていないものであって、到底採用できない。
控訴人が、この弁理士の個人的見解等に基づき、カットテープ付きのおにぎり包装フイルムの製造販売を断念し、本件考案の実用新案権者と交渉し、専用実施権を獲得したとの事実(甲第一九号証)があり、また、被控訴人が同実用新案権者と実施許諾の交渉をしたとの事実(甲第一八号証)があったとしても、このことが直ちに、当業界の平均的技術者らが「カットテープ」方式であっても本件考案の技術的範囲に属すると認識していたとの控訴人の主張の根拠とはならないことは明らかである。
さらに、証人直井保憲の証言中には、控訴人の右主張に沿う供述部分があるが、同証人も、「カットテープ」方式は、「ミシン目」方式に比べて、コストは高くなるが、フイルムの切離しがはるかに容易であり、中身が形崩れすることもほとんどないという機能上の相違があるほか、防湿性の点で全く問題がなく、「カットテープ」を設ける場所いかんにかかわらず切離しが容易であり、衛生面で全く問題がない、という作用効果の相違があることを認める供述をしているのであって、同証人の控訴人主張に沿う右供述部分は、採用できない。
その他、前示判断を覆すに足りる証拠はない。
2 同2について
控訴人は、被控訴人製品の「表示シール」は、被控訴人製品を「おにぎり包装用フイルム」として機能させるために必須のものではなく、被控訴人製品の使用状況をみると、折り畳まれた外装フイルムの両端部が接着剤又はヒートシール方式で固定された構造となっており、これが本件考案の「その両隅部を更に折畳みシール片9等により固定する」構造に該当することは明らかであり、被控訴人製品が「外装フイルム1を略半分に折畳んだ状態まで開封し・・・外装フイルム1の略半分を切離し可能とした」構造であることも疑いがない旨主張する。
しかし、成立に争いのない甲第四号証の一ないし四、乙第一〇号証、被控訴人製品であることに争いのない検甲第八、第九号証及び弁論の全趣旨によれば、市販されている被控訴人製品にはいずれも控訴人主張の「表示シール」が添付されており、表示シールが外装フイルムを固着させる機能をもつことが認められるから、実際におにぎりの外装フイルムを開封するに当たっては、表示シールの存在を無視することはできず、これによれば、原判決認定のとおり(原判決一七丁表一一行目から一九丁裏一行目)、表示シールを剥がさずに切断、開封できる被控訴人製品の「カットテープ」方式と、これを剥がさなければ開封できない本件考案の「ミシン目」方式とが相違することは明らかである。
また、被控訴人製品において、仮に表示シールを除外し、外装フイルムの一部にされているヒートシールによって外装フイルムが固定されていることを前提に考えたとしても、被控訴人製品においては、「カットテープ」方式が採用されていることにより、「外装フイルムを略半分まで折畳んだ状態まで開封」する手順を経る必要がなく、また、そのような手順を経て開封することを予定していない構造であることは明らかであって、この点においても本件考案と相違することに変わりはないから、控訴人の前記主張は採用することができない。
3 同3について
控訴人は、被控訴人製品は本件考案と均等であり、その技術的範囲に属すると主張する。
しかし、すでに説示したとおり、おにぎり包装用フイルムの分野において、フイルムの切離し手段としての「ミシン目」と「カットテープ」とは、その構成においても、作用効果においても異なるものであり、本件考案の考案者自身、両者をフイルムの切離し手段としては別個の技術的手段として認識し、「カットテープ」方式のものを本件考案とは別個の考案として実用新案登録出願をしているのであるから、均等をいう控訴人の主張はその前提を欠き、採用することができない。
二 以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は正当であり、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 芝田俊文)